JFA第44回 全日本U-12サッカー選手権大会(2020年度) レポート「秋田の育成の現在地は?」

ASP-Newsvol2

情報と経験が蓄積されない4種

全国大会で受けたレッスンや衝撃は選手達本人とその保護者しか正確にはわかりえない。しかし、その経験や学びを持って当事者達は次のステージへ進んでしまう。どのチームが全国に進んでもこのサイクルは毎年変わらない。現地で起こった事や感じた事を同じジュニア年代でフィードバックされることなくその選手と保護者のみの蓄積となる。

優勝チームは毎年異なり、コンスタントに全国を経験する指導者は秋田にはおらず、そして現地で起こっているこの全国のトップレベルと秋田の選手達との差異を正確に把握し語れる者は居ないし、こうした事を誰も知らないまま、また秋田の中で例年通りの水準の日常が繰り返されていく。結果に対しての情報共有と課題に対しての修正無く全国舞台で叩かれる顔ぶれだけが変わる繰り返し。

中学生と小学生程の大きな差を感じた選手達が、その差を作り出した秋田の環境の中に戻り、また数年間の日常を過ごす事に少なくない喪失感を感じる。ハード面、指導者、対戦相手など選手には変える事が出来ない領域の環境レベルがあまりに違う秋田に戻り、そこでまた過ごしていく中で高いレベルに到達出来るかどうかと言えば、ここまでの数年間でそこに到達出来ないのだからここから先の数年間でも到達出来ないと考えるのは現実的な未来。

関西や関東の選手達であれば全国大会よりも厳しい対戦相手が日常に存在しているし、今回の全国大会で対戦したチーム同士が隣県で日々何度も対戦している。例えば、トーナメントで対戦したバディーとジェフは今年だけでも既に何度も対戦しており、実際「バディーは今年ジェフに勝てていない」と、関係者が話していた。県を越えた対戦が日常であり、それを関係者が情報共有している日常が存在している。

この現状を真に把握している人がどれだけいるだろうか。

全国大会には各県の指導者が多数視察に訪れる。日頃教員を務めながら、会社に勤めながらサッカーを指導しているような個人の指導者までがはるばる鹿児島まで身銭で足を運びトップレベルのゲームや地元の代表チームの現在地を確認する。

現地に戻ってどのように指導すべきかどの部分を地元指導者に伝えれば良いか等観戦しながらディスカッションしている指導者が沢山いて、試合中どこに座っても前後左右そんな会話が聞こえ洩れてくる。


「サッカーを仕事にしているわけではないから」

「休みが取れない」

「お金がかかるから」

日本全国に高い熱量で学び続ける人達が大勢いる中、秋田の指導者だけがそんな言い訳は通用しない。

2年に1回開催されるJFAフットボールカンファレンス。日本サッカーが進むべき方向性を事例と共に検証し共有する育成に携わる人間にとって必要不可欠な学びの機会。学びや熱量を得るだけに留まらず様々な行動と広がりを引き出されてきたカンファレンス。アイスランド視察もここでの学びがキッカケだった。

過去3回は東京、広島、高知と開催され、移動・宿泊の費用や3日間という時間的拘束もあって前述の言い分もわからなくもないと思っていたが、1月に行われたフットボールカンファレンスがコロナの影響により初のリモート開催となり、言い訳のいくつかが封じられる開催レギュレーションとなった中、全国の参加2000人を超える指導者の中、3日間のプログラムに参加した秋田の指導者は自分を含め2名のみ(JFAフットボールカンファレンス事務局調べ)阻害要因が無くなっても参加人数が変わらないこの結果を見ると、結局みんなその気が無いだけなのだと痛感。

JFAが発信するマクロの方向性も把握せず、変化しない個々の容量内で指導してもその指導者以上の選手には育たないのでは?

このように秋田の全体的な育成のレベルや環境が変わる事がない事を考えると保護者が選手に対し正しい道筋を示してあげながらまずは我が子をどう導いてあげられるか、そこに懸っていると考える。

今や指導者より保護者の方がサッカーにおける情報量がはるかに凌駕しているケースが増えてきており、ここ秋田では特にお父さんお母さん達のサポートが全て。沢山の情報を獲得し大人が道筋を描いてあげて、後は選手が正しくフルコミットしていくことだと思う。

日常を変える!キーワードは「外」

将来、プロサッカー選手になりたい。あるいは設定した夢に対して100%でそこにトライしたいという選手は、やはり1年でも早く整ったエリアへ進むべきと感じる。結果と現状を整理してロジックで考えればこの現実は覆す理由が見当たらない。

次元が異なる中で本人たちは日々一生懸命やっている。地元の与えられた環境の中で一生懸命やるより他無い。誰もが外に出て行けるわけではない。

しかし経験や情報が蓄積されればされるほど、夢を叶える為に必要な道筋が見えてくるわけで、そこにトライしていかなければサッカーで目標とする所には到達出来ないし、これはサッカー以外でも同じ。

叶えたいところに到達するには普通に過ごしているだけでは到達出来ない努力量と、周辺環境が必要。

学力の高い高校や大学に入りたい、お医者さんになりたいなど人数が限られたゾーンを突破するには周りの人達と同じように過ごしていては到達出来ないわけで、これはサッカーに限った話ではないと思う。

秋田の現状、全国格差を知る

プロサッカー選手を目指すという選手であれば、何となくサッカーを続けて「なれたらいいな」では可能性が低い。

秋田の元サッカー少年達、何千人もの先輩達の中で夢を掴んだ選手が出ていない。思考停止でただ秋田の中におけがる常識的努力量でサッカーするのではなく、どうすれば可能性が高まっていくかを正しい情報とそこから導かれる方法論で進んでいく必要がある。

選手にとってプロサッカー選手になる事、我々指導者にとってプロサッカー選手を育てる事が全てではない。ただ、夢や目標に向かって正しく全力を注ぎ、出来るだけ最短距離でそこに向かう。そこの部分で口で言うだけの夢を叶えたいごっこのような嘘の活動をしていても意味が無い。

本気で寄り添うというのは我々ASPとして常に本気であるし、質や仕組みに対してこれまで以上にこれからも常に成長を施していく。

秋田のチームが全国で活躍する事は非常に難しい。冬期間の環境、屋内施設やグランドなどのハード面、県内そして隣県など対戦相手のレベルや地理的環境、指導者の問題。チームとして戦えるレベルに到達するのは容易ではない。

ただ、チームとしての活躍が見込めなくとも、選手個として全国のトップレベルに到達する事は可能。チームが個に与える影響は大きいものの、究極的にはチームと個は別。

この春、最終的に個として評価を受けて全国レベルの彼らと同じフィールドに立つ選手達が存在しているし、これまでも秋田を飛び出した選手たちが存在する。しかしながら、そこに辿り着くにあたり最も必要な要素としてはやはり「外」を知り、肌で感じる事だと思う。

アカデミーでは立ち上げ当初から全国と秋田の選手達の力関係を「2学年差」と形容してきた。秋田と対戦する相手チームにとってみれば地元の4年生とゲームをするくらいイージーで、視点を秋田側に移して言えば相手が中2と思えるくらい何もさせてもらえないという状況を指す。

過去、お盆に開催されているはなまるカップでは秋田県トレセンが1学年下の柏レイソルに敗れ優勝を奪われるなど、サッカー先進県との差異が学年差レベルである事を象徴する出来事もあった。

今回大会、もし別の組に入り、町田、ジェフ、マリノスなどのトップと対戦していたならば、2学年差という表現すら自信が持てなくなるような試合になっていたのではないか。そのくらいクオリティに差を感じた。

ASP-ACADEMEYの2学年差トレーニングの取り組み

アカデミーでは各選手月間5回のトレーニングを行い、その中には4・6年の2学年差トレーニングを組み込んでいる。これはまさにこの全国と秋田の選手たちの差異を意識して始めた仕組みで4年時に6年生の中で戦えるレベルになければ、6年生になって、こうした全国の舞台に出たとしても戦えない。その想定をもとに作り出したトレーニング設定。

しかしながら、アカデミーに入ってきたばかりの半年は特に基礎レベルの低さ、サッカー理解や人の話を聞くといった基礎的な素養が足りず、オーガナイズが非常に難しかった。その為、この4・6年トレーニングの改革をずっと検討してきたが今回、日頃我々がピッチを共にしている選手達が全国の舞台で戦う様を見て改めてこの2学年差の認識を強く感じる事となり、少し修正を加えながらも現行で継続していく必要性を再認識できた。

2学年差でトレーニングが出来るのは実は4年生まで。秋田ではジュニアとジュニアユースが連結しているチームが少なく3種と4種が年代でほぼ断絶している為、6年生とトレーニング出来る4年生時までがこの2学年差でプレー出来る最後の年代となる。環境のハンディキャップを仕組みで解決出来るならそれに越したことは無い。引き続きより良い方法を模索していくしかない。

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