2021年 全国大会レポート 情報格差・環境差・熱量

vol8

ジュニア年代最高峰の全国大会

 12月26日から29日までの4日間、JFA第45回全日本Uー12サッカー選手権大会が鹿児島県鹿児島市にて行われた。地域により「全日本」「全少」「全日」など様々な略称で呼ばれる同大会は、言わずと知れたジュニア年代最高峰の大会であり、選手達にとって最大の目標。全県大会を制して全国大会に出場し、その全国舞台で活躍する事を目指し日々ボールを追いかけている。

 現在の保護者さん世代でサッカーをしていたお父さんであれば、全国大会と言えば夏の読売ランドであり、小学生だった当時、全国大会に進めず県ベスト4で夢破れた筆者も「全国大会は人工芝グラウンドだからシューズはダメ」「出場する全選手に人工芝用シューズが提供される」という話を当時の羨んでいた気持ちと共にいまだ覚えている。その後のJヴィレッジ開催や静岡県御殿場市・時之栖開催などは、サッカーを知る人達にとってはまだ記憶に新しいところかと思うが、2015年に静岡から鹿児島開催に移り、夏ではなく12月開催となった現行の全国大会も気付けばもう随分と回数を重ねており、自分も鹿児島開催だけを数えても、もう3回足を運んでいる。

 全少については静岡開催と鹿児島開催を合わせ過去6回程足を運び、現地で視察してきたが、日頃から携わる選手が全国舞台でプレーする様を見れるようになったのは昨年が初めてで、今回が2大会目となる。昨年は5名の選手が全国のピッチに足を踏み入れ、今回は6名の選手が全国の舞台でプレーする事が出来た。ここからは今回出場した「八橋スポ少」というチームの結果の話ではなく、秋田県大会を制して全国に出場した秋田県代表チームという捉え方で今大会の結果と秋田県のジュニア年代の現状、今後の課題について触れてみたい。

物理的な距離に比例し存在する情報格差・環境差・熱量

 昨年に引き続き今回の全国大会でも日頃からサッカーの場を共にする沢山の方と現地で生の全国トップレベルに触れる事が出来た。
 スクール生の保護者さんや、今回はASPから小武海コーチも現地で直接見る事が出来た。テキストや動画情報では決して感じ得ない秋田と全国トップの差異を感覚的に認知し、これがどれだけの差であって、どれだけ秋田の環境が緩いのか、実際にプレーした選手に次ぐ感度でそれを体感出来たと言える。

 こうした体験を通じ、秋田でサッカーをする我々はいかにこうしたものに触れる機会が少なく、見る機会がなく、こんなにも何も知らないで過ごしているのだと、驚きと共に気づかされる。そしてそれはサッカーに限った話ではないとも思ってしまう。

 持論、これだけITやSNSが普及し、あらゆる情報が瞬時に獲得出来る世の中にあっても、ここ秋田に関しては情報も機会も様々なものが遮断されているかのように感じる。関東などの中央地区との物理的距離に比例して情報も熱量も全てが乏しい現実を感じる。それは環境的な話だけではなく、受け取る側のマインドにしても、その気があれば、自ら動こうとすればいくらでも獲得出来る中にあっても、全体的に腰は重く、動きは鈍い。上を目指す過程で、今回のようにそうした場に足を運ぶ機会を得た者にとっては、そこに足を運んでから初めて体感し、驚愕するような事が少なくない。本来はこうした体験や情報をどれだけ早く獲得する事が大切であり、しかしながらそこを解決出来る仕組みは今のところはこの秋田にはないと言える。

秋田の育成の先導役不在 秋田の現状をどう打破するか

 

年に1回、全国大会に出場する1チームしかこのレベルを経験出来ない
この日常の水準の低さが秋田の選手達にとってビハインドと言える

ご存知の通り、今回の全国大会、秋田県代表は3戦全敗の大量失点という形で全国挑戦を終えた。結果を気にしてリアルタイムでネット検索された方、JFAから提供されるYOUTUBEライブで視聴されていた方、後から結果だけを伝え聞いた方と様々かと思うが、いじわるな想像をすると、今回の戦績を笑う人もいるだろうし、全国への出場が叶わなかった他の選手の中には「俺たちが出てれば~」といった思いで見ていた人も居たはず。

しかし、秋田県代表は正真正銘、正当な秋田のチャンピオンであり、これを上回るチャレンジャーは居なかったという現実がある。予選、そしてノックアウトのトーナメント戦を何試合も勝ち抜いて全国の舞台に進んでいるわけで、そこを上回るチームが居なかった時点で戦績に対し「ウチなら~」といった「たら、れば」を持ち込む事は出来ない。

これは1つのチームの結果ではなく、秋田県全体の結果。どう今後に繋げていくか事後検証する必要がある。この結果を勝敗やスコアで語るのは、当事者までは仕方ないとしても、この秋田の現状を客観的に評価し、秋田県のジュニア年代の改善の為に提言し、進めていくべきリーダーが必要なはずで、これは本来、誰が担うべきなのだろうか。担うべき者が機能していないとすればそれはそれで問題だろうし、そもそも存在していないとすればそれもまた大きな問題と言える。

 全国大会における秋田県勢の結果も、高校サッカーの1回戦負けも、ジュニアユース年代の全国大会に秋田勢が1チームも出場していない事も、秋田のサッカー界にとってはぼんやりとした結果として抽象的に空中をさまよっているだけで、携わる誰もが自チームの勝敗と、他所のチームの勝った負けたに留まる受け止めになっている。秋田の選手達の成長や育成の道筋を縦(年代)×横(各チーム)で広く見て描ける人間が居ない為、各種別間の連携が無く全ての結果が勝敗と数字の記録だけで語られ、改善なく毎年同じ事が繰り返されていく。それがここ秋田で毎年起きているリアルだ。

全国と秋田の2学年差を体感

 全国のトップと秋田県勢の差異を「2学年の差」と形容してきました。もちろんこれまでアカデミー生には適時伝え続けてきましたが、それを体感的に危機感と共に理解出来ている選手は少数で、こうした舞台に立った選手と、それを現地で見た者でしか真に感じえないもの。当たって倒され、走っては剥がされ、フルタイム近くポゼッションされ、目が回るようなボールと人の動きの中で崩され続け、抵抗できず次々と失点していくそんな力量差の実体験。 

 6年生が4年生以下を相手に圧倒する時のような感覚。全国のチームが秋田県代表と対峙する時に得ている感覚はまさにそれであり、スコアと内容からそれが相違ない事実であることは疑いようがない。

 今回の全国大会でピッチに立ったスクール生は6名。決勝Tに2チームが進出する非常にハイレベルなリーグで、得失点を争い3チームが八橋FCスポ少に対しフルタイムで襲いかかるというこれ以上ないシチュエーション。予選リーグの中でトップレベル3チームから本気のレッスンを受けた今回の全国大会、選手達にとって結果は悔しいものだったかもしれないが客観的に見れば素晴らしい経験だった。
 

今回はスクール生という括りとは別に新設のASPジュニアユースでプレーする選手も6名。これまでであれば全国大会を通じ感じた事、以後に繋げていくべき課題など、スクール卒業によって手を離れまさに体験や情報がぶつ切りになってしまっていたが、今回に関しては現地で見たもの、感じたもの、それら全てを共有出来ている為、互いに同じ画を描きながら次のステージで進めていく事が出来る。これは素晴らしい事だと思うし、ASPとしてこれが今後続いていく事は非常に大きいと思う。
 

今大会の優勝は埼玉県代表のレジスタで、各チームの勝ち上がりは様々であったが、トーナメントへ進めたか否かや、最終的な順位はサッカーのレベルや目指すべき姿とまた相違があって、優勝したチームのサッカーが全てではないし、チームという固まりで見ていくだけでなく、各チームの素晴らしい選手達や局面ごとのモデルとなるプレー、サッカーの考え方(戦い方)など、強弱・勝敗という観点ではなく、焦点を当てるべきはもっと別にある。その意味で予選の千葉、奈良、熊本は秋田の選手達にとって素晴らしい学びとなる相手であったし、戦術と基礎の高かったフロンターレやジェフ、守備における戦術理解度と個の守備対応能力が高かった京都代表や突出したタレントを要する東京代表の横河武蔵野など、学びの種はそこら中に転がっていた。

 チームとして秋田の代表チームが結果を出すのは現状は不可能に思う。先進県の代表チームはそのほとんどが競争率の高いセレクションを勝ち抜いた競技力の高い選手が揃う。スカウティングはもちろん隣県からの越境も含め、どのチームもハイレベルな8名がピッチに立つ仕組みを構築している。秋田は昨年、今年と秋田市内の一地域の少年団が優勝し全国に駒を進めているが、選手を構成する前提条件がそもそも違う両者が同じ土俵で戦っているという状況だ。更に、先進県の県予選は全国大会より熾烈でどのチームも差はほとんどない。どこが強い、どこが良いではなく、結果的に勝てるか否かだけの差であり、埼玉であれば今年全国優勝したレジスタが毎年埼玉の代表かと言えばそうではない。江南南、レッズ、アルディージャと代表が入れ替わる。昨年全国優勝したトリアネーロ町田は今回は全国大会にも出場していない。地域間競争力に大きな差がある中で、この異なる水準の日常を長く過ごせば過ごすだけ差は開いていく。

あれだけやられた秋田代表の3試合の中でも、時間の経過と共に相手に引き離されながらもギリギリ対応出来たり、局面によっては奪回したりと、ハイレベルなそのプレーに選手達は次第にフィットしていった。その様を見ても、たった40分、たった数試合でこうした変化が起こるのだから、だからこそ、年間を通じたその地域の環境がいかに大切か、それを痛感する。逆に、日常がそうでないとすれば、その環境に居る日数が、年数が長ければ長い程、そこで生まれるビハインドは先々で取り返しがつかないものになる。これが現実だ。

「彼らに勝てるチームを作る」ただそれだけが目的ならば、選手の育成と並行して仕組みを変える必要がある。ベストな選手が集まり、良質の育成を提供すること。ジュニアの全国大会も、高校サッカーも集める仕組みと強化の手法、既に見えている答えをトレースした上で、それをもう少し何らかの形で上回る事でそこに近づく。ただ、ここ秋田ではそうした手法は現実的ではないからこそ、秋田の選手育成は別の道を歩む必要があると考える。高校サッカーのように選手を集める仕組みで強弱と勝敗が決する別次元の競い合いをジュニア年代で行っても意味が無いと思う。チームとして勝っても、勝ったそのチームで生涯サッカーをしていくわけではないし、個として次のレベルに進めるか、セレクションなどを突破出来るか、ナショトレに選出されるかといった場面では常に個としての評価しかない。

 秋田のジュニア年代の強化・育成をどのように行い、その先をどうイメージしていくべきか。奇しくもそのヒントを2年前、同じ人口規模の同じ雪国であるアイスランドで学んできた。チームだけ、主戦場となる種別だけの視野でピッチに立っても、特にこの育成年代の指導は選手にとって不足な事は明らか。ジュニアとジュニアユースという2つの種別に関わる事となったASPが長期的な育成をどのくらいの精度で実現できるか。そこを突き詰めていく。

まずは スペック=身体能力 の基礎水準を上げること

現在、ASPではパーソナルトレーニングを通じて能力向上の為の取り組みを行っている。昨年から約1年間実施してきたその蓄積を今度はアカデミー生の日常に落とし込むべく、今年のアカデミーセレクションから、日常で消化してもらうトレーニングメニュー課題を2ヶ月分提示。セレクション当日に行われるセレクション課題への準備と合わせてこちらのメニューも日々消化してもらった。

全国と秋田の差異、現在地から導き出した秋田の選手達が取り組むべき課題の1つとして、間違いなく必要であると確信し「身体を強く速く変える為の日常」を習慣化する体験として今回からこの取り組み課題を加えた。何を、どのくらい、どのようにという、ASPが提示する取り組みの手法が現在の内容で100点なのか確証はない。しかし、100点の正解が見えるまで踏み出さないのは違うし、最初からパーフェクトな手法など見えるはずもない。県全体のフィジカルの改善と、その為にどう取り組んでいくのか。そこにトライ&エラーで挑んでいく。

改めて感じた秋田の地域格差、進むべき道のヒントは2019年視察のアイスランドに

 

アイスランドは国の人口が秋田市と同じ人口規模にありながらフル代表はユーロやワールドカップでしっかりと戦績を上げている。 

 国にプロリーグもない。アイスランドではどのように育成をしているのか。ジュニア年代は、以後のユース年代はどのような育成をしているのか。同じ雪国にありながらハードなどの環境はどう整備されているのか。そこに興味を持ち、2019年に現地へ飛んだ。
 

指導者がどのようにコーチングしているのかとか、どんなトレーニングメニューが存在するのかなどという事ではなく、もっと抜本的で大きな所で相違があるはずだと思っていたが、やはりそこには国策と文化と地域の風土からなる仕組み=ロジカルな手法が存在していた。その中身については以前取り上げているのでここでは割愛するが、それらの半分以上は同じ人口規模で同じ雪国の秋田に出来ない事ではなく、そこでの学びをまさに今、ASPとして現在進行形でトライしている。
 

アイスランド視察後、ローカルパワーさんの力により体育館が1つ誕生し、今年はフルサイズの人口芝グラウンドが誕生する。どれもこれも自分には人生の全てを注ぎ込んでも到底叶えられない夢のようなプロジェクト。
 それが沢山の方々の思いとご協力の中で実現し、その素晴らしい環境下でスクールとチームの選手達が躍動し、アイスランドで学んだ幾つかの事が形となってここ秋田で体現されることになる。
 余談となるが、鹿児島での全国大会視察中に、偶然にも小野剛さんにお会い出来た。岡田ジャパン時代に日本代表でコーチをされ、今治FCや現在はまたJFAで活躍されている、サッカー関係者ならば誰もが知るあの小野さんだ。あらゆる言語を操る小野さんは様々な国の協会と人脈を持ち、自分のアイスランド視察の件では小野さんがアイスランド協会に繋いで下さり、その節は大変お世話になった。その際もメールと電話でのやりとりだけで直接お会いした事がなかった為、今回、初めてアイスランドの件について直接お礼を伝える事が出来た。JFAニュースでも取り上げて頂き、あの視察は自分の中でとても大きな出来事であった。
 秋田の育成の目指す道を改めて考える機会となった全国大会。これまでの気づきと、今回の再確認を持ち帰り、それらを日常に沁み込ませている。先導役が居ない秋田ではそれぞれが、それぞれの日常で目の前のことに対してどう基準を持って過ごしていくかに懸っている。基準を持つ事。常にアップデートしていくこと。それを環境としてどう作っていくか、ASPとしてのトライが続いている。

NPO法人秋田スポーツPLUS

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